「被相続人の財産として申告した預金の一部は贈与された相続人の財産である」という更正の請求が認められなかったことについての地裁判決。口座名義は相続人名義であり、銀行印もある一定時点からは相続人が保管していましたが地裁は下記の通り判断し、問題となった預貯金は被相続人の財産であるとして、納税者の主張を認めませんでした。
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平成26年4月25日の東京地裁判決から
認定事実によれば、下記のことが認められる。
①本件申告預貯金等の預入金額(又はその元金と推測される金額)は、概ね贈与税の基礎控除額(60万円、平成13年1月1日以降の贈与について110万円)の範囲内にあること
②本件原告ら名義預貯金等は、平成4年から平成11年までの間においては、概ね1年に1回の頻度で新たに預け入れられていることがうかがわれ、それ以前の期間においても、1年に1回程度の頻度で、新たに預け入れられていたことがうかがわれること
③本件原告ら名義預貯金等のうち、平成11年11月25日以前に存在していたものについては、2つの口座を除き、同日付けで、原告の住所地への住所変更、旧姓から現在の姓への氏名変更、届出印の変更(以下「平成11年の住所変更等」という。)が行われていること
④本件原告ら名義預貯金等のうち一定の口座(以下「平成11年及び12年開設口座」という。)については、当初から原告の住所地が住所とされ、届出印も原告が用意した「■■」の印影の印鑑が使用されたこと
⑤亡■■は、平成14年頃に行われた本件解約に伴い、本件解約済貯金を原資として、原告に対して■■■■円を交付していること
⑥原告は、平成15年以降、亡■■から、変更後の届出印の返還を受け、所持していたこと
上記認定事実及び証拠によれば、下記のことが認められる。
①亡■■は、昭和55年頃から、原告ら親族の預貯金ロ座を多数開設していたところ、これらを一括して手帳に記録していたほか、上記の手帳の記録には亡■■本人の預金も含まれていたこと
②本件申告預貯金等に係る口座は、いずれも、亡■■が、自らの財産を原資として定期預貯金を開設したものであり、平成11年11月25日以前に預け入れられたものについては、預け入れの際、名義人の住所は亡■■の住所地とされ、届出印は亡■■が保管していたものが利用されたこと
③平成11年の住所変更等の手続や、平成11年及び12年開設口座に係る手続も、亡■■が行ったものであること
④亡■■は、上記各手続をした後も、本件申告預貯金等に係る証書を自ら保管し、原告ら親族に交付することはなかったこと
⑤亡■■は、平成14年5月2日と同月20日、■■■、■■、■■、■■、■■及び原告名義の預貯金を解約し、その合計額は約■■■■■円、そのうち原告名義の預貯金は約■■■■円であったところ、亡■■は、原告に対し、同年6月3日、解約済の原告名義の預貯金の金額を上回る■■■■円を交付したこと
⑥亡■■は、上記の平成14年5月20日における解約金を自己の普通預金口座に入金し、同口座の資金を本件土地の購入資金に充て、亡■■名義で本件土地を取得したこと
⑦亡■■は、平成15年以降、原告に対して変更後の届出印を返還した後も、本件申告預貯金に係る証書を自ら保管していたこと
⑧原告においては、平成11年の住所変更等の手続の以前において、本件原告ら名義預貯金等の全容を正確に把握していたとはいえない
⑨■■においては、亡■■の生前において、本件申告預貯金の存在を認識していたことを認めるに足りる的確な証拠はない
以上の諸点に加え、本件申告預貯金等を贈与する旨の書面が作成されていないことをも勘案すれば、亡■■は、相続税対策として、毎年のように、贈与税の非課税限度額内で、原告ら親族の名義で預貯金の預け入れを行っていたものの、証書は手元に保管して原告ら親族に交付することはせず、原告において具体的な資金需要が生じたり、亡■■自身において具体的な資金需要が生じた際に、必要に応じてこれを解約し、各名義人の各預貯金の金額とは直接関係のない金額を現実に贈与したり、あるいは自ら使用することを予定していたとみるべきである。
したがって、亡■■においては、昭和55年頃当時又はその後の各預入の当時、将来の預入金額又はその後の預け入れに係る各預入金額を、直ちに各名義人に贈与するという確定的な意思があったとまでは認められないというべきである。
これに対し、原告は、亡■■が証書を保管していたことにつき、原告が証書を■■で保管していても預貯金を下ろすことはできないし、特に金員を必要とする事情もないことから、そのまま■■■に置いていたのであり、亡■■は、他人の財産を預かっていたにすぎない旨主張する。
しかしながら、平成14年以降における定期貯金の解約の状況とその使途に照らすと、亡■■が証書を保管していたのは、それまでに預け入れられた金員の具体的な使途につき亡■■が自己の意思を反映する余地を残す意図があったためであるといわざるを得ない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
原告は、平成15年1月6日からは「金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律」が施行され、原則として本人でなければ本人名義の預金を下ろすことができなくなり、同日以降、亡■■、は原告名義の定期預貯金の管理処分権を完全に喪失したといえる旨主張する。しかしながら、同法が施行されたからといって、これを契機として、直ちに亡■■の贈与意思が確定的なものとなったと評価することはできないから、原告の上記主張は採用することができない。
亡■■が、その生前において、原告に対し、原告ら名義の定期預貯金(本件原告ら名義預貯金)を贈与したと認めることはできないから、これらの預貯金は亡■■の相続財産に帰属するものというべきである。
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